Third wave coffee(サードウェーブコーヒー)とは、コーヒーを単なる飲み物ではなく、産地や品種、精製方法によって異なる風味を楽しむものとして捉える考え方です。日本語では「コーヒーの第3の波」と訳されます。
シングルオリジンや浅煎り、ハンドドリップが注目されるきっかけになった文化ですが、特定の豆や淹れ方だけを指す言葉ではありません。生産から抽出までの工程を大切にし、一杯の背景にある情報と個性を伝えようとする姿勢が中心にあります。
この記事では、third wave coffeeの意味や歴史、スペシャルティコーヒーとの違い、日本で広まった背景、自宅で楽しむ方法を分かりやすく解説します。
Third wave coffee(サードウェーブコーヒー)とは

Third wave coffeeとは、コーヒー豆を農産物として捉え、産地や品種、生産処理、焙煎、抽出によって生まれる味の違いを楽しむ文化や運動のことです。
ワインを産地やブドウ品種で選ぶように、コーヒーも「どこで、誰が、どのように作ったのか」に注目します。そのうえで、豆が持つ香りや甘さ、酸味、口当たりをできるだけ生かす焙煎と抽出を行います。
サードウェーブコーヒーの要点
・コーヒー豆の産地や品種、生産者を重視する
・豆ごとに異なる香りや味わいを楽しむ
・生産から抽出までの情報を分かりやすく伝える
・焙煎や抽出の技術によって豆の個性を引き出す
サードウェーブは認証や厳密な規格ではない
サードウェーブコーヒーには、法律や認証制度によって定められた共通規格がありません。一定の条件を満たした豆や店舗だけが名乗れる名称ではなく、コーヒーに対する考え方や文化を表す言葉です。
そのため、サードウェーブ系の店でも焙煎度や抽出方法、仕入れ方は異なります。浅煎りのシングルオリジンをハンドドリップで提供する店が多いものの、それらが必須条件というわけではありません。
シングルオリジンだけを指す言葉ではない
シングルオリジンとは、生産された国や地域、農園、生産者など、一定の範囲まで由来をたどれるコーヒーです。複数の産地の豆を組み合わせるブレンドと比べて、産地ごとの特徴を感じやすい傾向があります。
ただし、サードウェーブコーヒーがブレンドを否定しているわけではありません。目的に合わせて複数の豆を組み合わせ、それぞれの長所を引き出したブレンドもあります。大切なのは、使用する豆の品質や背景を理解したうえで味を設計することです。
サードウェーブコーヒーの主な特徴

サードウェーブコーヒーには厳密な定義がないものの、多くのロースターやカフェに共通して見られる特徴があります。ここでは、代表的な考え方を確認していきましょう。
産地や生産者まで分かるトレーサビリティ
トレーサビリティとは、商品がどこで作られ、どのような経路を通って届いたのかを追跡できる状態のことです。
サードウェーブ系のコーヒーでは、国名だけでなく、地域、農園、生産者、標高、品種、精製方法などが表示されることがあります。こうした情報は品質管理に役立つだけでなく、味の違いを理解する手掛かりにもなります。
ただし、表示される情報の細かさは豆や販売店によって異なります。農園名が書かれていないからといって、直ちに品質が低いとは限りません。
豆の風味を生かす焙煎
サードウェーブコーヒーでは、焙煎による強い苦味だけで味をまとめるのではなく、豆がもともと持つ香りや甘さ、酸味を引き出すことが重視されます。
そのため浅煎りや中浅煎りがよく選ばれますが、すべての豆に浅煎りが適しているわけではありません。豆の密度や水分量、品種、精製方法、提供したい味に合わせて焙煎度を調整します。
深煎りであっても、豆の特徴を考えて丁寧に焙煎されているコーヒーはあります。「サードウェーブだから必ず浅煎り」と覚えるよりも、豆の個性に合わせた焙煎を重視する文化だと理解するとよいでしょう。
精製方法による味の違いを楽しむ
精製とは、収穫したコーヒーチェリーから種子にあたるコーヒー豆を取り出し、乾燥させる工程です。同じ産地や品種でも、精製方法が違えば香りや口当たりが変化します。
代表的な精製方法の傾向
・ウォッシュド:すっきりとした口当たりで、酸味や風味の輪郭を感じやすい
・ナチュラル:果実を思わせる香りや甘さ、厚みが出やすい
・ハニー:果肉の一部を残して乾燥させ、甘さと透明感の両方を感じやすい
※実際の味は産地、品種、発酵、乾燥方法などによっても変わります。
抽出を味づくりの一部として考える
サードウェーブ系のカフェでは、ハンドドリップ、エスプレッソ、エアロプレス、フレンチプレスなど、豆の特徴や目指す味に合わせて抽出方法を選びます。
ハンドドリップが象徴的に扱われることはありますが、手で淹れれば必ずおいしくなるわけではありません。豆と湯の量、挽き目、湯温、抽出時間などを管理し、再現性のある味を作ることが大切です。
風味を言葉で伝える
コーヒーのパッケージやメニューには、「ジャスミン」「ベリー」「シトラス」「チョコレート」のようなテイスティングノートが書かれていることがあります。
これは通常、香料や果汁を加えているという意味ではありません。豆の香りや味わいから連想される印象を、分かりやすい言葉で表したものです。
感じ方には個人差があるため、書かれた味を正確に当てる必要はありません。「明るい酸味がある」「甘い余韻が残る」など、自分が感じた特徴を楽しむことが大切です。
ファーストウェーブからサードウェーブまでの歴史

コーヒーの「第1の波」「第2の波」「第3の波」は、主にアメリカを中心とした消費文化の変化を説明するために使われる区分です。世界中のコーヒー史を厳密に分ける年代ではなく、それぞれの時代は重なっています。
| 区分 | 重視されたこと | 代表的な特徴 |
|---|---|---|
| ファーストウェーブ | 手軽さと普及 | 大量生産、流通の拡大、家庭で飲むコーヒー |
| セカンドウェーブ | 品質とカフェ体験 | エスプレッソドリンク、深煎り、店舗空間 |
| サードウェーブ | 豆の個性と背景 | 産地情報、品質管理、繊細な焙煎と抽出 |
ファーストウェーブ:コーヒーが日常に広がった時代
ファーストウェーブは、コーヒーが一部の人の嗜好品から、多くの家庭で飲まれる身近な商品へと広がった流れを指します。
焙煎や包装、物流の発達によって、長期間保存しやすい商品やインスタントコーヒーが普及しました。品質や産地の違いよりも、価格、手軽さ、安定した味が重視された時代です。
大量流通によってコーヒーを飲む習慣が広がったことは、その後のコーヒー文化の土台になりました。
セカンドウェーブ:カフェで楽しむ文化が定着
セカンドウェーブでは、コーヒーの品質や店舗で過ごす体験に関心が向けられるようになりました。エスプレッソを使ったカフェラテやカプチーノが広まり、カフェが自宅や職場とは異なる居場所として利用されるようになります。
深煎りのコーヒーやミルクを使ったメニューが親しまれ、豆の種類や抽出方法に興味を持つ人も増えました。スターバックスやピーツ・コーヒーなどは、一般にセカンドウェーブを象徴する存在として挙げられます。
サードウェーブ:コーヒー豆そのものに注目
1990年代後半から2000年代にかけて、コーヒーの関心は店舗の雰囲気やアレンジメニューだけでなく、豆そのものの品質と生産背景へ向かいました。
「サードウェーブ」という表現は、コーヒー専門家のトリッシュ・ロスゲブが2000年代初めに発表した文章をきっかけに広く知られるようになりました。コーヒー文化の変化を3つの波として整理し、当時の新しい動きを説明したことが現在の用法につながっています。
なお、サードウェーブの考え方が突然誕生したわけではありません。それ以前から高品質な豆を探し、生産者や産地に注目していたロースターやコーヒー専門店が存在していました。
スペシャルティコーヒーとの違い

サードウェーブコーヒーとスペシャルティコーヒーは関連が深いため、同じ意味で使われることがあります。しかし、厳密には注目している対象が異なります。
サードウェーブは文化や考え方
サードウェーブコーヒーは、産地の個性や生産背景を尊重し、焙煎や抽出によって魅力を伝える文化や運動を表します。豆だけでなく、店舗での説明、サービス、抽出体験なども含まれる言葉です。
スペシャルティコーヒーは価値や品質に関する概念
スペシャルティコーヒーは、際立った特徴を持ち、市場で高い価値が認められるコーヒーやコーヒー体験を表す概念です。生豆の評価だけでなく、生産、流通、焙煎、抽出を含む一連の工程が品質に影響します。
高品質なスペシャルティコーヒーはサードウェーブ系の店舗でよく扱われますが、両者は完全な同義語ではありません。
ダイレクトトレードとサステナビリティ

サードウェーブコーヒーでは、品質だけでなく、生産者との関係や流通の透明性が語られることもあります。ただし、言葉の印象だけで判断せず、実際の取り組みを確認することが大切です。
ダイレクトトレードに共通の認証基準はない
ダイレクトトレードは、ロースターや輸入業者が生産者と関係を築き、品質や価格について話し合いながら取引する方法を指して使われます。
仲介業者をまったく介さない取引だけを意味するとは限りません。輸出入や品質管理のために、現地の組合、輸出業者、輸入業者などが関わる場合もあります。
また、ダイレクトトレードには世界共通の認証制度がありません。名称だけでは取引価格や生産者への還元を判断できないため、継続的な買い付けや価格設定、支援内容などを具体的に公開しているかを見る必要があります。
高品質と持続可能性は自動的に同じにならない
高品質なコーヒーを高い価格で買い付けることは、生産者の収入向上につながる可能性があります。しかし、品質の高い豆を扱っているだけで、環境や労働条件に関するすべての問題が解決するわけではありません。
持続可能性を重視して選ぶ場合は、認証の有無だけでなく、生産者との関係、価格の透明性、環境への取り組み、長期的な取引実績などを総合的に確認するとよいでしょう。
日本の喫茶店文化とサードウェーブコーヒー

日本ではサードウェーブという言葉が広まる以前から、自家焙煎やネルドリップ、サイフォンなどにこだわる喫茶店が存在していました。一杯ずつ丁寧に淹れる姿勢は、サードウェーブと共通する部分があります。
似ている点と異なる点
昔ながらの喫茶店とサードウェーブ系カフェには、抽出技術を重視し、店ごとの味を追求するという共通点があります。一方で、味づくりや情報の伝え方には違いも見られます。
| 比較項目 | 昔ながらの喫茶店に多い傾向 | サードウェーブ系カフェに多い傾向 |
|---|---|---|
| 焙煎 | 中深煎りから深煎り | 浅煎りから中煎り |
| 豆 | 店独自のブレンド | シングルオリジン |
| 味わい | 苦味、コク、余韻 | 香り、甘さ、明るい酸味 |
| 情報 | 店主の経験や技術を重視 | 産地、品種、精製方法を表示 |
これはあくまで一般的な傾向です。浅煎りを扱う喫茶店もあれば、深煎りやブレンドを得意とするサードウェーブ系ロースターもあります。
2015年のブルーボトルコーヒー日本進出
日本で「サードウェーブコーヒー」という言葉が広く知られる大きなきっかけの一つが、2015年に東京・清澄白河へオープンしたブルーボトルコーヒーの日本1号店です。
ただし、日本のスペシャルティコーヒー文化がこの年に始まったわけではありません。それ以前から高品質な豆を扱う自家焙煎店やロースターが活動しており、ブルーボトルコーヒーの進出を機に一般の注目がさらに高まったと捉えるのが適切です。
現在では都市部だけでなく全国各地にロースタリーやコーヒースタンドがあり、地域ごとに異なるスタイルが生まれています。
サードウェーブコーヒーの選び方

初めて豆を購入するときは、専門用語をすべて理解する必要はありません。好みの味を伝え、少量から試すと自分に合うコーヒーを見つけやすくなります。
好みの味から選ぶ
豆の説明に書かれたテイスティングノートを見ると、味わいの方向性を予想できます。
| 好み | 表示の例 | 選び方の目安 |
|---|---|---|
| 華やかな香り | フローラル、ジャスミン、紅茶 | エチオピアなどの豆から探す |
| 明るい酸味 | シトラス、オレンジ、リンゴ | 浅煎りやウォッシュドを試す |
| 果実感と甘さ | ベリー、ワイン、熟した果実 | ナチュラル精製を試す |
| 落ち着いたコク | チョコレート、ナッツ、キャラメル | 中煎りから中深煎りを試す |
産地だけで味が決まるわけではありません。品種、精製方法、焙煎度も確認しながら選ぶと、好みに近い豆を探しやすくなります。
焙煎日と飲み頃を確認する
コーヒー豆は焙煎後に香りや味が変化します。ただし、焙煎した直後が必ず最もおいしいとは限りません。焙煎直後は豆の内部にガスが多く、抽出が安定しにくい場合があるため、数日休ませてから飲み頃を迎える豆もあります。
適した期間は焙煎度や保存状態によって異なります。購入時にロースターへ飲み始めの目安を確認し、無理なく飲み切れる量を選びましょう。
豆の状態で購入する
コーヒーは粉にすると空気に触れる面積が増え、香りが失われやすくなります。自宅にミルがある場合は豆の状態で購入し、抽出する直前に挽くのがおすすめです。
ミルがない場合は、使用する抽出器具を店員に伝えて挽いてもらいましょう。密閉できる容器に入れ、直射日光、高温、多湿、強いにおいを避けて保存します。
自宅でサードウェーブコーヒーを楽しむ淹れ方

自宅では、特別な技術よりも豆と湯の量を毎回そろえることが重要です。最初に基本のレシピを決め、味を見ながら一つずつ条件を変えていきましょう。
ペーパードリップの基本レシピ
1杯分の目安
・コーヒー豆:15g
・お湯:240g
・湯温:90〜94度
・挽き目:中細挽き
・抽出時間:2分30秒〜3分程度
最初に30〜40gほどのお湯を注ぎ、粉全体をぬらして30秒前後待ちます。その後、数回に分けてゆっくり注ぎ、合計240gまで抽出します。
浅煎りの豆は成分が溶け出しにくい傾向があるため、やや高めの湯温が使われることがあります。ただし、器具や豆によって適した条件は異なるため、購入店が紹介しているレシピがあれば、まずはその方法を試すのがおすすめです。
味が合わないときの調整方法
抽出したコーヒーが薄く、酸味だけが目立つ場合は、挽き目を少し細かくするか、抽出時間を長くします。反対に苦味や渋みが強い場合は、挽き目を粗くするか、抽出時間を短くしてみましょう。
| 気になる味 | 主な調整方法 |
|---|---|
| 薄い、酸っぱく感じる | 細かく挽く、湯温を上げる、抽出時間を延ばす |
| 苦い、渋い | 粗く挽く、湯温を下げる、抽出時間を短くする |
| 濃すぎる | 豆を減らすか、お湯を増やす |
| 味が毎回変わる | 豆とお湯を計量し、注ぎ方をそろえる |
一度に複数の条件を変えると原因が分かりにくくなります。挽き目、湯温、抽出時間のうち一つだけを変えて比較するのが上達の近道です。
サードウェーブコーヒーに関するよくある質問

ここでは、third wave coffeeについて疑問を持ちやすいポイントを整理します。
サードウェーブコーヒーは酸っぱいのですか?
サードウェーブ系の店では浅煎りが多いため、深煎りに慣れている人は酸味を強く感じることがあります。ただし、良質な酸味は単に刺激が強いものではなく、果物を思わせる明るさや甘さと一緒に感じられるのが特徴です。
酸味が苦手な場合は、チョコレートやナッツ、キャラメルと表現された中煎り以上の豆を選ぶと飲みやすくなります。
浅煎りでなければサードウェーブではありませんか?
浅煎りは代表的なスタイルですが、必須条件ではありません。中煎りや深煎りでも、豆の産地や品質を重視し、個性を生かして焙煎しているコーヒーはあります。
ハンドドリップでなければ楽しめませんか?
ハンドドリップ以外でも楽しめます。フレンチプレスは豆の油分を含んだ厚みのある味になりやすく、エアロプレスはレシピによって幅広い味を作れます。エスプレッソでも産地の個性を表現できます。
スターバックスはサードウェーブコーヒーですか?
コーヒー文化の区分では、スターバックスは一般にセカンドウェーブを代表する企業とされています。エスプレッソドリンクやカフェで過ごす文化を広め、消費者がコーヒーの種類に関心を持つきっかけを作りました。
ただし、現在の商品や店舗の取り組みをすべて一つの区分だけで説明できるわけではありません。コーヒーの波は企業を厳密に分類する制度ではなく、文化の変化を理解するための枠組みです。
フォースウェーブコーヒーとは何ですか?
サードウェーブに続く動きを「フォースウェーブ」と呼ぶことがありますが、共通した定義はまだありません。抽出の科学やデータ活用、高品質なコーヒーの大衆化、生産者との公平な関係、多様性など、さまざまな説明があります。
現時点では、サードウェーブの次に公式な第4段階が定められたというより、これからのコーヒー文化を考えるために使われている言葉と捉えるとよいでしょう。
まとめ:Third wave coffeeは豆の個性と背景を楽しむ文化
Third wave coffeeとは、コーヒーを均一な味の商品としてではなく、産地や品種、精製方法によって個性が変わる農産物として楽しむ文化です。
シングルオリジン、浅煎り、ハンドドリップは代表的な要素ですが、それだけでサードウェーブかどうかが決まるわけではありません。生産から抽出までの工程を理解し、豆の魅力を丁寧に伝えようとする姿勢が本質です。
初めて試すときは、ロースタリーやコーヒー専門店で好みの味を伝えてみましょう。「酸味は控えめがよい」「果物のような香りを試したい」など、簡単な希望だけでも豆を選んでもらえます。
産地や精製方法の違いを少しずつ飲み比べることで、これまで同じように感じていたコーヒーにも、多彩な香りや味わいがあることに気づけるでしょう。



